プレゼントのアピール&プロフィールコピーライターのプレゼント
ライターと呼ばないで

マンスリー広告批評〈04.1月〉

私は「コピーライター」という言葉は嫌い(当Webサイト『プレゼントのアピール』に理由掲載)だが、コピーライターと紹介されるのは仕方ないと思ってい る。広告の仕事でお客様とお会いし、自らの役割を伝える際に、コピーライターという言葉以上に適切に表現できる単語はない。あるいは、私は時に「匿名で書 かれる殆ど全ての文章を書く仕事で、コピーライターともライターとも違います。時には新聞記事も書きます。この時は新聞記者になります。ただ、ゴーストラ イターだけはやりません」などと説明する場合もあるが、殆どの場合「コピーライター」という言葉を使って誤解を与えることはない。 一方私は、広告・販促ツールの打合せで時に「ライター」と紹介されるのだが、この場合は常に違和感あるいは嫌悪感を抱く。と言っても最初にお会いした時 に、いきなり「いや、ライターではなくコピーライターです」と切り返すのは不自然だし、そう言い張るほどの愛着はコピーライターという言葉にないので、ラ イター・川中紀行で通すわけだが、私の勝手な自負だと分かっていても違和感・嫌悪感が消えることはないのだ。
では、“私がライターと紹介された時にだけ抱く違和感・嫌悪感はなぜ生まれるのか”について、まずコピーライターとライターの定義付けから説明を始めてみ よう。私は当社スタッフの面接で、この人はライター志向だなと思うと、コピーライターとライターの定義を伝え「あなたはライター向き」と助言することにし ている。実は、コピーライター志向の人にも逆のアドバイスをするのだが、理由は当社の業務がコピーライターとライターを包括したもっと幅広い内容をこなさ なければならないからだ。だから、どちらかに偏った志向性を持った人は当社には合わないのである。以下は、その面接の際に伝える両者の定義である。

コピーライターとライターの違い〈ライターについて〉


ライターとは、基本的には雑誌・ムック・書籍・タウン情報誌などの媒体を主要ステージとして文章を書く存在で、発信元に企業(もしくは官公庁・各種団体) 名が冠される広告・販促向けの文章を書くことは一般的にはない。そして多くの場合、自らの思想をもとに自らの文体で原稿を書き、自らの固有の世界あるいは 得意分野で実績を積みながら、最終的には自らの名前による自らのオリジナル原稿を出版することが一つの到達点となる。「書く」仕事をさらに分類すれば、作 家(小説家)・ノンフィクション作家・随筆家・脚本家・俳人・歌人・詩人など、明らかに自分の世界で勝負されるアーティストに近い方々がいらっしゃるわけ だが、本来ライターとは、自分の世界を構築するという意味においてこの方々と同じジャンルに属する存在だと言って差し支えないと思う。
ただ自分の世界を構築すると言っても、原稿内容が掲載される媒体によって制約されることはもちろんある。雑誌の特集の場合も、割り当てられたページにより ライターの書く内容は当然違ってくるし、編集方針による指示もなされるであろう。しかしライターは、ある別な人格の代弁者としてメッセージすることはない のだ(インタビュー記事はここで言う意味とは異なる)。つまりライターはある種の制約を確かに受けながらも、究極的には自分の書く世界の中の主人公であり オーナーなのである。また、ライターの活躍する媒体の多くが特定のクラス(母親・30代女性・女子高生etc.)や興味(サッカー・インテリア・ペット etc.)を対象にしているため、必然的に多くのライターが比較的狭い範囲(これが将来、自らの得意分野になる)を継続して扱うことになる。したがって、 経験を積めば積むほど自らが発信する情報は自らのオリジナルの世界を形成し、自らの思想に基づいてくる。例えば長年、化粧品の記事を中心にコスメライター などと称して活躍されている方は、化粧品に関して一家言を持ち独自のデータを持つ。もちろん「カワイイ!」に書くコスメの記事と「フラウ」に書くコスメの 記事を書き分けることは必要になるし、例えば「カワイイ!」で「今回の号は“ちょっと大人メイク”という特集企画だから、すぐ試せそうなお姉さん的メイク の内容にしてほしい」などと指示されることはあろう。しかし根本の思想は自らの経験とデータから生み出されるのである。なぜなら、その思想こそがライター の存在理由であり、活動の基本になるからである。同様に「サッカーマガジン」のライターであれば、日本サッカーに対するオリジナルな見識を持っていてしか るべきで、そのライターの持つ独自の視点こそが歓迎される。これは、音楽・グルメ・旅行・映画・政治・経済など、あらゆるジャンルに共通するライターの姿 である。

コピーライターとライターの違い〈コピーライターについて〉


一方、コピーライターとはライターの手がけない広告・販促向けの文章を書く存在である。さらに詳しい内容は当Webサイト「プレゼントのアピール」に書い ているが、ライターとの明らかなる違いは、クライアントである企業(もしくは官公庁・各種団体)という一人格の代弁者であるという避けられない宿命にあ る。したがってコピーライターは、あくまで企業が認めた世界の中でしか仕事ができない。ただし、誤解のないように付け加えればコピーライターは、自らの創 造力と(経験に基づいた)企画力によりクライアント企業の発信する世界を自ら構築したコンセプトと重ねることで、その企業のメッセージをより効果的に導く 存在でもある。その意味ではコピーライターの仕事にも厳然として“自分の世界”は存在するのだが、あくまでその世界はクライアントとしての企業の理念と共 有されたうえで成り立つのである。 発信者である企業の意志を、自らの文章力と企画力を通してよりよく伝えていく。そこには、クライアント企業の置かれた立場を考え、企業が宣伝する商品・ サービスのポジションとセリングポイントを考え、さらにその商品・サービスを購入する顧客の心理を考え、場合によっては自分が書いた文章が誰の手で、どん な状況で、いつ、どこで、どんな方法で読まれるかを考えることが必要になる。もちろん、長く仕事をすることで企業と自分との間にかなりの範囲の共有意識が 生まれるので、それらの要素に配慮する労力が減少することは確かだ。そして“自分の世界”を広告・販促の世界で実現できる範囲も広がってくる。しかし「自 分の書く世界の中の主人公でありオーナー」と表現したライターに比べ、コピーライターは広告の中で決してオーナーにはなれないのである。もちろん、世の一 流のコピーライターの皆様の中にはオーナー(社長)と対等に話し、そのクライアント企業の代弁者として全幅の信頼を置かれている方もいらっしゃるが、それ でもコピーライターは永遠にクライアント企業という一人格と同一にはならない。あくまで「代弁者」としての役割を外れることはないのである。

私をライターと呼ばないで

さて、ライターとコピーライターの定義付けを済ませたところで、冒頭の“私がライターと紹介された時にだけ抱く違和感・嫌悪感はなぜ生まれるのか”という 問いに対する回答を述べてみたい。 「自らのオリジナルの世界を形成し、自らの思想に基づいて」仕事をするライターは、「クライアント企業の置かれた立場を考え、企業が宣伝する商品のポジ ションを考え、さらにその商品を購入する企業の顧客の心理を考え、場合によっては自分が書いた文章が誰の手で、どんな状況で、いつ、どこで、どんな方法で 読まれるかを考える」ための経験とノウハウを持ち合わせていない。また、私は「自らの創造力と(経験に基づいた)企画力によりクライアント企業の発信する 世界を自ら構築したコンセプトと重ねることで、その企業のメッセージをより効果的に導く存在」とコピーライターの一面を紹介したが、その過程ではクライア ントへの根気強い説得と意志疎通が不可欠である。ライターの業務には、メッセージの発信元(クライアント企業)とその種のコミュニケーションをする機会は 殆どないと言ってよい。だから、妥協し合い認め合いながら共同作業で一つの広告や販促ツールを作るノウハウがないのである。
改めて繰り返すが、世の一流のコピーライターの皆様の中には、クライアント企業との信頼関係の下で、自らのコンセプトをそのまま表現できる立場にある方々 も存在する。一方で(喧嘩してまでも)決して自説を曲げないコピーライターとして仲畑貴志氏の名前を挙げられる方もおられる。しかし、それでもなおコピー ライターの役割は、あくまでクライアント企業の持つ理念から逸脱することができない。なぜなら広告・販促物は、常に広告費を支払うスポンサーであるクライ アント企業(もしくは官公庁・各種団体)なる人格が意図するメッセージとしてしか存在しえないからである。
以上に述べた事柄から、優れたコピーライターはライターの能力を包括する存在だと説明することもできる。なぜなら様々な状況を判断して文章の方向性を決定 し書くノウハウが身に付いたコピーライターは、ライターとして書く場合にも同様の配慮ができるはずだからである。したがってコピーライターは雑誌・ムッ ク・書籍・タウン情報誌などの媒体にも文章を書くことができる。当社が雑誌「フロム・エー」の巻頭特集記事を1 年間、企画・コーディネートから取材・撮影・原稿作成・先方校正まで全て行ってきたという実績からもそれはお分かり頂けるであろう。一方、広告・販促ツー ルのコピーを作成するノウハウを持たないライターは、それを書くことができない。実際にこれまで私は「雑誌のライターの人に頼んだのだけど、うまくいかな かった」という経緯で仕事を依頼された経験が何度かある。また、どれほど優秀な編集プロダクションであっても、ある広告の企画から提案してほしいという オーダーに応えられる可能性は限りなく低い。
つまり、コピーライターはライターになれるが、ライターはコピーライターになれないのだ。したがって私にとって、ライターとして紹介される事は、「あなた はコピーライターではない」と明確に言われたのと同じ感覚を抱かせるのである。 これが冒頭の問いに対する私の回答である。

本当はライターがいい?

このようにコピーライターは、ライターを上回るある種の能力を備える。ただし再び誤解のないように言っておくと、個々のライターが築いた“自分の世界”で コピーライターは勝負することができない。例えばサッカーの専門誌の専属ライターより的確にサッカーについて書けるコピーライターが存在する確率はとてつ もなく低いはずだ。情報誌のグルメコーナーをずっと担当しているライターよりグルメ情報に詳しいコピーライター、宝塚のファン向け雑誌の専属ライターより 宝塚の劇団員を把握しているコピーライター、クルマ雑誌のライターより自動車に精通しているコピーライターが存在する可能性も皆無ではないが、いずれもそ の確率はかなり低い。
さらに言えば、コピーライターは(得手不得手はあるにしても)基本的にはどんな業界、あるいはターゲットにも対応できて当たり前で、業務スタイルだけに目 をやればどんな相談にも応じられる弁護士と同様である。ただ、自動車メーカーをクライアントに持つ制作プロダクションのコピーライターなどは、往々にして 一年中、自動車のコピーばかり書いているケースも実際に見られる。しかし、クルマ雑誌のライターと、クルマのコピーだけを書いているコピーライターの違い は、やはり書いている世界が“自分の世界”であるかどうかの一点にある。クルマ雑誌のライターは、試乗した様々な新車の乗り心地を自分の感覚と身に付いた データから判断して客観的に書き分けるわけで、そこには確固とした自分の意見、自分の感じた世界が成立する。翻ってクルマのコピーだけを書いているコピー ライターは、同じクルマに関する文章を書いていても、数多くの自動車メーカーの中の1社(でないケースもあるかもしれないが)の伝えるメッセージの代弁者 として書くわけである。したがって、そこに客観性の入る余地は皆無に近く、クライアントにとってマイナスとなるコピーが書けないのは当然で、他社の新車の コピーを書く機会が訪れることもない。前段で述べた言葉を借りれば、クルマ雑誌のライターより日産自動車(あるいは他の自動車メーカー)に精通しているコ ピーライターはいるかもしれないが、客観的な意味で自動車に精通しているコピーライターが存在する可能性は低いと言えるのである。
さて、ここまで読んで頂いた皆様は、コピーライターとライターのいずれが魅力的に感じられたであろうか。その問いに対する答えは、一人ひとりのコピーライ ター(あるいはライター)によっても違ってくるだろう。実はコピーライターの能力の幅広さをずっと述べておきながら、私自身の最終目標は“自分の世界”で 評価される書き手なのだ。クライアントの意志を伝えるコピーライターの技術は経験を重ねるほど磨きがかかり、若さにはない実績が現実的に力を発揮する仕事 でもある。私は、かつてメーカーを退職し自ら選んだコピーライターなる仕事のそこが好きだし誇りに思う。だが、自由に“自分の世界”を表現できる快感はそ れを上回る。 私をライターと呼ばないで。しかしその一方で私は、いつか川中紀行という名前で勝負できる書き手になりたいと願って努力を続けている。
(2004.1.9)

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