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コピーライターの性別

マンスリー広告批評〈01.5月〉

「女はだめ」などと端から決めつけた言葉を吐く旧世代の方々は問題外として、もちろんコピーライターに性による優劣はない。実力の世界である。むしろ「女 性のコピーライターがいい」と、逆にオーダーを受けることは時折ある。その理由として「やわらかな表現にしたいから」などとおっしゃられる方が意外に多い が、この見方は全くと言っていいほどナンセンスである。 私は、コピーに関して男女の差は基本的には存在しないという立場だ。ただ、女性のコピーライターの方がふさわしい広告は存在する(もちろん、その逆も)。 それは、男性では商品の特性を実感として捉えることが困難な場合である。その最たる事例が、化粧品(特に基礎化粧品)の通販広告や記事広告(これも主とし て通販)だ。もちろん、化粧品の広告だからといって雑誌・新聞広告やテレビCMの制作者あるいはコピーライターが女性ばかりというわけではない。それは、 幾多のTCC会員を輩出した資生堂宣伝部を考えても明らかである。
しかし、マス媒体向けの広告と通販広告との間には、はっきりと手法の違いがあるのだ。昨今の大手化粧品各社の純広告は、商品コンセプトをストレートな表現 で伝える傾向が顕著だが、使用感はあくまで商品コンセプトから導かれる内容の域を出ていない気がする。しかし通販広告は、はっきりとした現実の使用感を ベースにした説得力ある体験型の文章が求められるのである。さらに文章量は後者の方が断然多く、単なる商品資料だけではごまかしが効かないという制約もあ る。また通販広告は、クライアントから商品の試用体験を求められる場合もある。男性でも基礎化粧品を試してみることは可能だが、リアルな使い心地を他社ブ ランドと比較できないことはもちろんである。「実際に2週間使ってみてから、もう一度打合わせしましょう」などと言われた時に、男女どちらのコピーライ ターが適格かは明らかであろう。
ここで通販広告に対する誤解があるので申し上げておく。多くの広告クリエイターの間でマス媒体向けの広告より(仕事の質において)ランク的に下に見られて いる通販広告だが、コピーライターに求められる条件は見方によっては通販広告の方がより厳しい側面もある。最大の理由は、マス媒体向けの広告が「ブランド 育成」の名の下に“売れ行きは二の次”的な位置づけをますます強めているのに対し、特にマス媒体の通販広告にははっきりと結果が求められるからである。売 れなければ、売れる広告に即変える。趣旨を理解できないコピーライターは、理解できるコピーライターに即変える。これがハイレベルの通販広告の世界の常識 である。だからこそ、著名な通販企業は媒体・露出日・地域別にレスポンス率と広告表現を管理し、広告効果を厳密にチェックしているのだ。
このようにコピーライターが厳しい評価に晒される基礎化粧品の通販広告において、「試用してみて実際に商品のよさを感じたうえでコピーを書いてほしい」と いう要求に対し、男性であるという事実は、当然ながら大きなハンディキャップとなる。もちろん、それを乗り越えるだけのコピーの実力があれば別だが、「女 性にとっての使用感をリアルに実感できない」というデメリットは、男性コピーライターである限り、絶対に避けることはできない。当社は(女性向け)エステ サロンの広告を経験したことがないので、この方面の広告制作の実情を知らないが、私が制作プロダクションに在籍していた当時、エステサロンの担当はやはり 女性コピーライターであったし、独立してから一度、話だけあったエステサロンの広告も“女性のコピーライター”が条件であった。なぜなら、広告制作に入る 前にエステ体験が求められたからである。この分野も、男性コピーライターには大きなハンディキャップがあると言わねばならない。
この他にも、例えば婦人服の最新のトレンド情報を盛り込んだ通販カタログや販促ツールなど、女性のコピーライターの方がそもそも実生活の時点から「情報摂 取量」で勝る場合がある。当社はこのようなケースも、できる限り女性のコピーライターで対応する。知人の女性コピーライターは、高校生の娘さんがいらっ しゃって(つまり出産経験者)、広告はもちろんベビー雑誌の企画・取材もこなしているが、例えば画期的なベビー用品のプレゼンがあり、しかも(ここが問題 なのだが)クライアントの販売戦略が単なるブランド告知でなく、母親の実感から攻める考え方であった場合、母親でありベビー用品市場に詳しく「情報摂取 量」で優る彼女の方が私などより遙かにコピーライターとして信頼がおける存在と言えるのではないか。これが、モデルかタレントを起用してとにかくブランド の認知度を高めればいいなどという考え方であれば、女性と男性の間の情報摂取量の溝は解消される。きちんとしたオリエン(オリエンテーション)さえあれ ば、男性コピーライターであるという性差は問題ではなくなる。例えば、生理用品は完璧に女性ターゲットの商品だが、これを使用実感に近い表現アプローチで 行うことはない。女性にとって生理は不快なものであり、生々しい実感からのアプローチが広告的に決してよいイメージではないからだ。したがって、完璧なる 女性向け商品であるにも拘わらず、生理用品の広告は男性コピーライターでも問題なく対応できる条件を整えているのである。ただ、統計をとってみれば便宜上 の理由で、女性コピーライターが生理用品の広告を担当している場合が多いのかもしれない。
しかし男女の差を「情報摂取量」に限れば、男性でも努力次第でクリアできる壁であり、実際にそのような努力の下で女性向け商品のコピーを書かれている男性 コピーライターの方もいらっしゃるであろうから、女性コピーライターが絶対であるとは言い難い。これもよく言われることだが、「知らないからこそできる新 鮮な発想」に期待できるメリットもある。
雑誌「宣伝会議」(8月号)でコピーライターの児島令子氏は「好むと好まざるに関係なく」自分は女性だから「私の書くコピーは女性の書くコピーになる」と し、女性ターゲットの商品でも「あえて『女心』を考えてコピーを書くことはありません。」と述べている。一方で氏は、男性ターゲットの商品コピーを書く際 も特別に男心を考えることはなく「常に『わたしごころ』という視点でコピーを書いている」と述べる。「自分の居場所は一つ。けれども、自分の中にもいろん な面があるので、どんな人を対象とした商品でも、必ず自分との接点があるはず」という氏の視点は、コピーライターであれば誰でも賛同するのではないか。私 ももちろん同感であり、氏のように自信を持って仕事に臨みたいと考える(ただし、これまで述べた制約のある分野を除いて)。そもそも「男性的」「女性的」 なる言葉は、あくまで文化がつくり出した一つの性格的・行動的な概念(ジェンダー)にすぎず、生物学的な「男性」「女性」と完璧に一致しているわけではな い。男性でも多かれ少なかれ女性的な側面を有しているし、もちろんその逆も言える。これに関してくどい説明は不要であろう。ただ、(ジェンダーとしての意 味で)「男性的なコピー」「女性的なコピー」という表現は可能だと思う。
女性コピーライターを是とする最も多いパターンは、冒頭の「やわらかな表現にしたいから」という、主として表現面の期待から生まれることが多い。
コピーの世界では「やわらかい」「固い」という言葉が多用されるが、これは実際には「こなれている」か「こなれていない」かという表現の方が的確である。 つまり、「固い」表現とは、商品・サービスの特長や広告の狙いへの理解が不消化な(こなれていない)ため、自分の言葉になりきれず文章がぎこちなくなって しまって陥るコピーであり、「やわらかい」表現とは、逆に理解が進んでいる(こなれている)ため、コピーライターの言葉としてコピーが再構築できているコ ピーなのだ。したがって、「やわらかい」コピーにしたいから女性のコピーライターに依頼するというのは、意味が明らかに違う。前述の児島氏の例を見るまで もなく、男女に限らす優秀なコピーライターは、扱う商品・サービスを自分の感覚に引き寄せてメッセージできる才能を備えているからである。
私の体験を紹介しよう。独立し始めの頃だから、もう10年近くも前の話だが、関東最大手の観光バス会社の入社案内のコピーを担当したことがある。「バスガ イド」と言えば、もちろん女性の代表的な職業である。この時、スポンサーは「コピーライターは女性の方に」という注文を出したのだが、制作全般を受注した デザイナーが、コピーライターに私を選んだのである。そこで、私は一度も打合わせに行かず、先方には「女性のコピーライターが担当しています」と伝えて制 作を行った。バスガイドには日報という制度があるため、私はインタビューのために身分を明らかにする心配もなく、彼女たちの日報を読みながら日々のリアル なエピソードをコピーとして入社案内に反映させた。もちろん、一度もトラブルは起きずにコピーは実にスムーズに進行した記憶がある。
業界誌の企画として、ひとつこんな実験も面白いかもしれない。アトランダムに選んだ広告・販促ツールに対し、コピーライターは女性か男性かを、クリエイ ティブディレクターたちに当てさせるのである。私はこの企画、そんなにくだらないとは思わない。実力の世界にも拘わらず、コピーライターの性別があたかも コピーの表現を左右するかのような誤解がまかり通っている実情があるのだから。もちろん既に私が述べた特別な事例を除いての話だが、コピーに男女の性を起 因とする優劣を見出すことは一般的にかなり難しいはずである。優しい、いかにも(ジェンダーとしての意味で)女性らしい表現が得意な男性コピーライターの 方も、またその全く逆の女性コピーライターの方もたくさんいらっしゃるはずなのである。だから、少なくとも(ジェンダーとしての意味で)「男性的なコ ピー」がほしいから男性のコピーライターに、「女性的なコピー」がほしいから女性のコピーライターに、という発想は多くのケースで期待外れの結果を生むと 私は思う。ただし、その依頼する商品が、既に私が述べた分野の女性向け商品である場合や「情報摂取量」の男女差が比較的大きな場合は、男女の選択を慎重に して無駄になることはない。
「男女共同参画社会」が標榜されている現代にあっても、まだまだ“家事は女の仕事”という保守的考え方がはびこっている。いま既婚者で「俺、料理できない んだよ」なぞと平気でおっしゃる男性は、明らかに時代認識とのズレがある。言ってみれば鈍感な方々であると申し上げたい。したがって、家事関連の商品はや はり女性のコピーライター、という考え方もやめてもらいたいし、「ターゲットは主婦」という決めつけも、常に決めつけてもらっては困る。多くの商品購入の 実権が妻にあるのは多数の調査が指摘していることだが、ショッピングモールやスーパーマーケットでの夫婦連れの買い物は実感として多いし、(私も含めて) 夕食の買い物をしている夫らしき男性一人客も実に多い。二人連れの買い物シーンでは、夫が妻に商品の希望を述べている姿も煩雑に見かける。仮に、多くの商 品購入権が妻の側にあるにしても、(広告・販促で言うところの)「主婦」に対するコピーと、そうでないコピーとの間に明確な区別をどこに見つけるのか。あ るいは、区別をつけることが販売上の成果につながる根拠があるのか。大切なのは、その商品のメッセージが、いま求められている消費傾向に沿ってきちんとな されているかではないのか。よく「主婦向けだから表現は平易に」というオーダーも耳にするが、それは男性向けの場合も同じではないのか? 日本語の読解力 がどんどん下がっている全ての日本人には、情報整理が行き届いた簡潔なコピーが必要なはずなのである。私は、コピーライターの男女の性を問題にするのと同 じ視点の源に、男女消費者の情報処理能力に対する偏見があるような気がしてならない。
「コピーライターの性別」と銘打ちながら、“男性コピーライターに適したコピー”について語らなかった。一例だけ当社の経験で言えば、以前に“男性エステ ”の記事広告を受注した際は、男性のコピーライターが担当した。女性のためのエステサロンで述べたのと逆の理由の他に、特に男性週刊誌向けの広告には、男 性しか分からないある種の心理の熟知が求められたからである。いずれにしても“男性コピーライターに適したコピー”の多くは“女性コピーライターに適した コピー”の逆の事例に帰着するはずであるが、これに関してはまた別の機会があれば触れてみたい。最後に、医学的見地からの研究を実現できれば、コピーライ ターにおける男女差を分析することが可能なのかもしれない。しかし、これは私の能力を上回る課題であるため、ここでは言及しない。

バックナンバー
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●「手紙」という広告
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●誰がアメリカの広告戦略を担えるのか
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●私的「三点リーダ」論。
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