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業界誌の広告観

マンスリー広告批評〈00.8月〉

某有名業界誌が数年前に「広告ビッグバ ン」なるタイトルの特集をやった。ひと目見た時、私は「久しぶりに骨のありそうな感じ。代理店経由の広告流通 へのアンチテーゼまで語るのか?」と期待した。その頃、広告制作プロダクションを経営している同業者と話せば「もうクライアントは、大手広告代理店を経由 することの無駄 に気づいている」と、大いに零細プロダクションの意義を語ったりしていたものだ。しかし、当の特集は違った。その内容は、“金融ビッグバンを訴求する広告 の出稿が目立っている”という事実を、例によって著名企業の広告担当者のインタビューで裏付けたお決まりの提灯記事だったのである。恐らく、この業界誌の 編集者たちは「広告ビッグバン」という日本語から自然にイメージされる意味など全く頭になかったに違いない。でなければ、“広告業界自体のビッグバン”と は全く視点の異なるこの特集に「広告ビッグバン」なるタイトルを付けるなど恥しくてできない。これこそ誇大表現でなくて何であろうか。 一体、広告の批評あるいは、広告業界について語る側の方たちは、自らのポジションをどこに置きたがっているのか? あるいは、位 置自体の認識がないのか? 「広告ビッグバン」なるタイトルは、明らかに社会情勢の動きと広告を連動させようという意図がある。しかし、内容はと言えば、“企業メッセージをいかに広 告展開しているか”という単純な紹介にすぎない。私は、マンスリー広告批評(4月)で「広告批評の限界」について論じた。その時私は、社会批評としてとら えた場合の広告の未熟さ、不可能性について記した。業界誌が、真に社会情勢との連動を意図するなら、まずその辺の企業広告の内容について一つひとつ分析し てもらいたい。広告が、ひとたび客観的な社会メッセージを語ろうとした時の限界について。もしそれを実現してくれるなら、社会情勢の動きと広告を連動させ ようという業界誌の意図に対して、私は限りない敬意を払うであろう。一方、広告をあくまでクリエイティブの産物ととらえる広告批評の位 置付けもある。私はこれを否定しない。広告の斬新さに力点を置いたこうした楽屋落ちの論評も、正解のない広告という存在にとっては至極当たり前で、むしろ 自然な現象である。だからこそ逆に、クリエイティブ寄りのテーマ以外で広告について書くとき、“社会との連動”には、充分な分析を踏まえた論理を展開して ほしいのだ。広告を単に社会情勢の流れを反映した従属物と見なし、いい加減に適当にやろうとすれば、自ずと「広告ビッグバン」の二の舞となるであろう。そ の二の舞が、これも著名な某業界誌の9月号に掲載されたタイトルである。 「日本にも本格的なドット・コム広告ブームが到来!?」。一見どうと言うことはない見出しである。「いいじゃないか、別 におかしくないじゃないか」と思われる方が、恐らく大多数であると考える。しかし「ドット・コム広告」という言葉の根は「広告ビッグバン」と同一である。 そもそもこの見出しの付いた記事は、単にドット・コム企業が広告出稿を始めたという事実にすぎない。記事中では「検索エンジンサイトやポータルサイト会社 の、いわゆるドット・コム系CMが目立つようになってきた」と記されている。この「系」に何の意味があるのか判断に苦しむが、見出しと記事中で見られる キーワードの矛盾に、そもそもこの言葉「ドット・コム広告」の曖昧さが見てとれる。世がドット・コム企業の一種のブームであることは多くの方がご存じだろ う。「ドット・コム広告」という言葉は、ブームとなっている“ドット・コム”という言葉の力を借りた広告自体の新しい概念を想起させる。しかし、ここで語 られているCMは単にドット・コム企業の“これまでの手法による”広告にすぎない。私は、これも誇大表現であると思う。単に、ドット・コム企業の“これま での手法による”広告について語るなら、「日本にも本格的なドット・コム企業の広告ブームが到来!?」でいいではないか。もちろん、見出しの効果 からいえば、表現的に優れているという論理も成り立つ。しかし、そもそもこのコーナーは「注目の最新CM紹介」なのである。ここで言う「最新のCM」は 「CMの最新の概念」とは違うのに、正に「CMの最新の概念」というイメージを狙ったのが本タイトルなのだ。“表現的に優れている”のと“表現的に誤解を 与える”のとは、大きな違いである。 『化粧品の広告を「化粧品広告」と言う場合だってあるんじゃないのか』というご指摘には、その例にならうなら「ドットコム企業広告」が正しいと申し上げた い。しかし、ここで取り上げられている広告は「企業広告」とは言い難いから、この表現は矛盾する。 私が言いたいのは「日本にも本格的なドット・コム広告ブームが到来!?」と大上段にメッセージするなら、「ドット・コム広告」なる新しい概念を見つけてか らにしろ、という点に尽きる。いま例えば「化粧品」という言葉と「ドットコム」という言葉は、広告に取り上げられている商品という意味で同一にはとらえる ことはできない。「ドット・コム」は、当時の「ビッグバン」同様、あたらしい社会的な潮流を示す意味合いを含んでいるのだ。だからこそ「ドット・コム広 告」という言葉が、単なる“ドット・コム企業の広告”を表すために使われるのを、同じ文章を書く身として許せないのだ。明らかに言葉に鈍感か、もしくは確 信犯かである。また、この記事は「ドット・コム企業」の存在を社会批評的な視点から語るなどという斬新な取組みからも遠い。つまり、極めて単純なクリエイ ティブ寄りの内容なのである。だから「単なる広告業界レポートに、まぎらわしい言葉を使うな」と言いたくなるのである。「ドット・コム広告」なる広告群 に、ドット・コム企業自身を解釈する視点を見つけることこそ、真のマスコミなのではないのか。そんなこと言ったって、いずれ「IT広告時代の幕開け」なん て言葉が、見出しで踊り出すような気がしてならない。それもよしとしよう。しかしその際は、少なくとも広告のメッセージを通 じてIT産業自体を分析・解釈してもらいたいのである。
バックナンバー
●クリエイターのコミュニケーション能力(1)
●広告雑感アーカイブ(4)
●広告雑感アーカイブ(3)
●CMへの悲鳴と皮肉
●「手紙」という広告
●政治広告の嘘
●広告雑感アーカイブ(2)
●広告雑感アーカイブ(1)
●「さ、」のリユース
●「スタッフの勝手な近況」から(8)
●「リライト」論
●“広告会社”という言葉への大いなる疑問
●CMキャラクターという架空
●ライターと呼ばないで
●「スタッフの勝手な近況」から(7)
●誰がアメリカの広告戦略を担えるのか
●広告と社会との関係
●こんな言葉を広告で見かけませんか?(2)
●私的「三点リーダ」論。
●店頭には責任を持たなくてよいのか?
●「スタッフの勝手な近況」から(6)
●エーペラ文化
●迷走する「広告の迷走」。
●こんな言葉を広告で見かけませんか?(1)
●「スタッフの勝手な近況」から(5)
●コピーライターという言葉
●イメージへの過信
●「スタッフの勝手な近況」から(4)
●コピーライターの性別
●いいコピーライターになるための50の条件
●「スタッフの勝手な近況」から(3)
●「ソリューション」の憂鬱
●自民党宮城県連のテレビCMへの異議申し立て
●「スタッフの勝手な近況」から(2)
●「現代広告の読み方」
●疑似表現について
●「スタッフの勝手な近況」から
●業界誌の広告観
●既成概念への配慮について
●広告スペースを選ぶ必要はないのか?
●チカラ(力)がただいま流行中
●広告批評の限界について
●“広告英語”の現在
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