プレゼントのアピール&プロフィールコピーライターのプレゼント
コピーライターという言葉

マンスリー広告批評〈02.3月〉

本Webサイト「プレゼントのアピール&プロフィール」の中で私は、「コピーライター」という言葉に対する 有限会社プレゼントとしての定義を述べている。しかし、実はそれはコピーライターの定義では既になく、当社が考え目指している“文章作成の仕事”そのもの の定義づけに他ならない。その内容は、世の中のコピーライター諸氏が線引きしているコピーライターの仕事の領域を遙かに越え、匿名で書かれるあらゆるジャ ンルの文章作成に及ぶ。つまりYAHOO!で「コピーライティング」と紹介されている当社の業務内容は、「コピーライティング」以外の多くの領域を含んで いるのである。一方でコピーライター関連のWebサイトを見る限り、“コピーライターはコピーを書くのが仕事”という前提で全てが語られている現実があ る。したがって、本Webサイトで「コピーライターという言葉が嫌いである」とさえ書いている私のコピーライターなる言葉についての認識や疑問は、世の中 のメインストリームではないと、思っていた。ともかく、著名コピーライターの方々の書かれた文章あるいは対談において、私が目にした限り「コピーライ ター」という職業名自体に疑問を投げかけた人物は皆無であった。ところが“コピーライターという仕事もしている”私以外のコピーライターが書いた文章にお いて、初めて「コピーライター」という言葉に疑問を投げかけた内容に先日出会ったのである。それが改めて「コピーライター」という言葉について語るに至っ た動機である。
そのもう一人のコピーライターとは、他ならぬ糸井重里氏である。
糸井氏が主催する「ほぼ日刊イトイ新聞」については、知らぬ方のほうが寧ろ少ないであろう。個人サイトで日本最高の人気を誇るこのWebサイト中のセク ション「ダーリンコラム」で書かれていた「消える肩書き」(02.2.18)がその文章である。この中で糸井氏は、羅宇屋(らおや)など、既に消え去って しまったいくつかの「肩書き」について語りながら、「コピーライター」という肩書きに次のような疑問を投げかけている。 「だけど、ぼくがいちおう自分の肩書きにしている『コピーライター』なんていう職業などは、登場してから時間の経っていない新参者なのに、なんだか、も う、ピンとこないものになりつつある。もともと日本では「広告文案家」というような言われ方をしていたものが、アメリカの言い方に倣って、「コピーライ ター」というようになったらしい。しかし、事実、『文案を書く』ってことが、それだけを取りだして独立した仕事になるなんてケースは、とても珍しいんだと 思うんだよなぁ。『文案』を『書く』ことで報酬を受け取るということになってるけれど、実はそれまでに考えたり取材したり打ちあわせしたり、そういう時間 や、労力のほうが、ずっと多いし、そっちで方向が見えてなかったら「文案」もできない。となると、自分の仕事のほとんどの部分が、『コピーライター』と呼 びにくくなるんだよなぁ。」
当たり前のことだが、糸井氏と私の広告業界における位置づけ、実績、知名度は比較することすら不可能なほどかけ離れている。私は以前に「広告学校」で“糸 井先生”の講義を受けた一生徒であるし、週刊文春に連載されていた「萬流コピー塾」(あえて説明致しません)では一度だけ「竹」に選ばれてバッジを頂いた 経験も持っている。その私が糸井氏の文章をもとに自らを語るという行為には、少しばかり引け目を感じるのだが、ここはあくまで一ファンの立場とご理解のう えお読み頂きたい。
さて、引用した文章中「『文案』を『書く』ことで報酬を受け取るということになってるけれど、実はそれまでに考えたり取材したり打ちあわせしたり、そうい う時間や、労力のほうが、ずっと多いし、そっちで方向が見えてなかったら『文案』」もできない」という氏の感想こそ、私が「コピーライター」という言葉が 嫌いである理由の一つである。私は本Webサイト「プレゼントのアピール&プロフィール」中で「言葉に汗を感じないからである。『コピーライター』という 言葉が軽すぎるのである。あくまで当社の置かれた環境で申し上げるならば、文章を「書く」という行為には、それ以前に地味で根気のいる資料の整理・分析 や、脈絡のない説明から相手の真意を汲み取るセラピストのような気配りが必要なのである」と述べている。広告の文章作成に限らず、“何らかの文章を書く” 仕事とは、そうした面倒で手間のかかる作業なくして成立し得ないはずなのである。そして少なくとも「コピーライター」という言葉から私は、それを感じるこ とができないのだ。
コピーライターがもてはやされた80年代当時、「コピーライターはコピー(複写)を取るのが仕事」などという冗談があったが、そこまでの誤解はないにし ろ、現在「コピーライター」という職業を知っている人で「コピーライターとは、広告やポスター等の短いキャッチフレーズを1本考えただけで相当の報酬がも らえる仕事」などと思われている方々がまだ少なからずいらっしゃるのではないか。私はそうした誤解を、この「コピーライター」という軽い言葉の響きが助長 しているような気がしてならない。しかし、事実はそれと正反対で、少なくとも当社における仕事は、糸井氏の言葉を借りれば「考えたり取材したり打ちあわせ したり、そういう時間や、労力」が実に重要な位置づけを占めている(そして恐らく一般のコピーライターの皆様とはその質も違う。質が高いとは言わない。中 身が異なるのである)。さすがに糸井氏は「コピーライターという言葉が嫌い」とまでは書かれていないが、「ぼくは、いろんな仕事をするときに、『コピーラ イターの仕事の範囲です』と、言いながらやってきた。しかし、そう言い続けることには無理がある。『イトイの仕事の範囲です』とは言えても、それはやっぱ りコピーライターの仕事じゃないことは多い」と、「コピーライター」という言葉に対する居心地の悪さを指摘されている。また、この「ダーリンコラム」の終 わりで糸井氏は、「『コピーライター』という、まだ日本中の人が知っているわけじゃない新参者の仕事が、もう消えようとしているのかもしれない。」とまで 述べられている。そして文末を「かと言って、いまの自分がやっていることを、ぴったり表してくれるような肩書きも見つからないし。まった新しい名前をつけ ても怪しげなばかりだし、なかなか難しいなぁと思っている」と結ばれている。これも、本Webサイト中の私の文章「『広告文案家』と気取るつもりもない し、『コピーライター』に代わる新語を使うのは、業務内容のPRが目的のWebサイトという媒体においては無意味だ」と同じ意味を含む内容だ。いずれにし ても、「コピーライターという言葉は我々の業務内容を正しく反映していない」という点で、(“コピーライター”である)糸井氏と共通の認識を得た気がして 私はうれしかった。
私自身にはコピーライターという職業が消えてしまうという危機感はないが、当社の業務領域を広告・販促ツール以外の分野に広げたのは、まさに「考えたり取 材したり打ちあわせしたり、そういう時間や、労力」で磨かれた感覚や蓄積されたノウハウを広告・販促の分野だけに止めておくのはもったいない、という理由 からである。そして、すべてのコピーライターが広告・販促ツール以外の分野に進出できる能力を持ち合わせている訳ではないという事実と、もう一方で通常コ ピーライターという肩書きで仕事をしている人種は、広告・販促以外の(面倒で手間のかかる)分野を手がける意識すらないという競合上のメリットからであ る。
なお、本文を読まれた方々の中で「地味で根気のいる資料の整理・分析や、脈絡のない説明から相手の真意を汲み取るセラピストのような気配り」の具体的な内 容についてもう少し触れてほしいと思われた方がいらっしゃるかもしれない。しかし、それは「コピーライターという言葉が嫌い」な私が、(一般的な)コピー ライターについて語ることになるという矛盾と、コピーライターの業務内容について語る場合“業界的には二流”のコピーライターである私よりもずっと適任の コピーライターの皆様が数多くいらっしゃるという二つの理由で遠慮しておきたい。
糸井氏は前述のように「もともと日本では『広告文案家』というような言われ方をしていたものが、アメリカの言い方に倣って、『コピーライター』というよう になったらしい」とも述べられているが、英会話学校での私の貧しい英語体験ではあるものの、英語で「Copywriter」と言ってすぐに日本語の「コ ピーライター」と理解できるネイティブは意外に少ない。「Copy」を「Copywright」の「Copy」と理解するネイティブが多いのである。これ は決して発音云々の問題ではない。仮に「広告の文章を書く仕事」という意味を英語で伝えられたとしても、そもそも「Copywriter」なる英単語を知 らないネイティブが存在するのだ。したがって、本欄の「コピーライターという言葉」は、英語の「Copywriter」について述べる(2)をいつか書く ことを前提に(1)とした。
本欄をお読みになった方で、英語を母語とする国々に住むネイティブの「Copywriter」に対する認識について詳しい方がもしいらっしゃれば、当社ま で情報をお寄せ頂けると、とてもありがたい。なにしろ私には、英会話のNOVAに行くしか今のところ術がない(情報があまりに偏っている)のだから。そし て、「コピーライターという言葉」についてのこのように根本的な内容についてさえ、これまで広告業界は話題にしてこなかったのだから。
(2002年3月8日)

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