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私的「三点リーダ」論。

マンスリー広告批評〈02.9月〉

「三点リーダ」について書く。実は私はこの記号を使用しない。理由は後述するが、本欄を書くに当たり、試みに関連のWebを検索したところ、何と414件 (11月22日現在)のサイトが検出された。記号の『…』がいいか、中黒を3つ並べた『・・・』がいいか”等のテーマで熱い論争が繰り広げられるなど、イ ンターネット上では想像以上に注目されている記号だった事実に驚きを覚えたが、もちろん広告の視点からこの記号を扱ったサイトは見られなかった。 三点リーダ。本欄では「・・・」を使用するが、言葉を省略する際や余韻を残して終えたい時に文章の最後に付ける記号である。この「・・・」という記号、果 たして広告の世界でどのように使われているのか? あくまで私的に分類した「・・・」の広告における活用事例を下記に示したうえで、私が「使用しない」理 由を述べてみたい。

(1)情報の隠蔽
「設備・仕様は申し分ないけれど、キッチンがちょっと・・・」などと、(言いにくい・言えない)情報を飲み込む際に使われるタイプ。

(2)語り手の迷いや思考
「思い切ってカーテンを変えたいけど、遮光や断熱のことを考えると新鮮なアイテムが選べない・・・」など、語り手が迷ったり思案したりしている場合に使われるタイプ。

(3)余韻をこめた投げかけ
「いま最も注目されるブロードバンドとは・・・」という風に、読み手に投げかける言葉の最後に使われるタイプ。 ※文章が完結しているのに語尾に「・・・」 を付ける場合もある。これは単純に余韻の効果を狙 ったものだが、基本的に邪魔である。

(4)言葉の省略
「お年寄りや体の不自由な方、子供そして大人・・・」など、それ以降の(あまり重要でない)情報を省略する場合に使われるタイプ。

(5)言葉の省略による誘引
「超大物アーティスト・・・」などと、(4)と違い誘引を意図として情報を省略する場合に使われるタイプ。

(6)言葉の削除
「詳しくはスタッフまで…」「製品に関するお問い合わせや最新情報は・・・」など、続く言葉を単純に省略する場合に使われるタイプ。(4)と違い一方的な削除に近い。

(7)句読点の代用
「Leadership・・・ Women・・・ Leadership ・・・You」これは某人材サービス企業の広告で実際に露出された実例であるが、一般的にはあまり使われない。

以上が私的に分類した「・・・」の活用事例である。インターネット文化を含む一般的な書き言葉でも、ほぼ同じ事例が見られるのではないか。もちろん表現の 自由(憲法21条1項「集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する」)を出すまでもなく個人的な「・・・」の使用は自由だ。た だ、インターネット上の論争においてさえ「『・・・』を多用すると文章の信頼性が損なわれる」という指摘が見られるように、相手に対する印象を考えた場合 「・・・」の使用には、十分な注意が必要なのは明らかである。では、このように「・・・」を使う人々が一方で抱くある種ネガティブな印象はどこから来るの か? それを語ることが、冒頭で述べた「実は私はこの記号を使用しない。」という言葉の説明になるかと思う。
当社のスタンスについて初めにお断りしておくが、本Webサイト内でスタッフが個人として発信している文章(「スタッフの近況」「PREZENT MAGAZINE」)では「・・・」が使われている場合がある。これはもちろん表現の自由の下、私が制限を加える範囲外であるからである。 一方、当社が業務として発信する全ての文章で「・・・」を禁じているのは、その文章が当社の商品であり、個人的な表現の自由に優先すると考えるからであ る。また、著作権という意味でも当社が業務として発信する文章は全て(個人にではなく)有限会社プレゼントに責任があるという理由からである。
さて「三点リーダ」だ。「この記号を使用しない。」とまで述べた私の「・・・」に対する評価は、文章の曖昧さを助長するという点に集約される。先ほど区別 した(1)から(7)の順に説明していくが、この「三点リーダ」に関する私の意見は、あくまで私の文章感覚から出たものでしかない。後述するが、「三点 リーダ」の効用は確かにあるし、その使用・非使用はそれぞれの書き手が決めればいいことだ。したがって「三点リーダ」を使用する書き手を非難する意図を私 は持ち合わせていない。しかし私は使わない。

(1)情報の隠蔽
「設備・仕様は申し分ないけれど、キッチンがちょっと・・・」

この文章では「気になる」等の述語を省いているが、「〜キッチンがちょっと気になるという方には」と述語を明確にし、文章を切らずに続けた方が文章のリズムはよくなるし読みやすい。また、 この場合「・・・」の後、「そんな方に」と続けるのだろうが、述語の隠蔽がもたらす“意味不明な戸惑いの感情”は、読み手の円滑な読解を妨げる恐れがある。

(2)語り手の迷いや思考
「思い切ってカーテンを変えたいけど、遮光や断熱のことを考えると新鮮なアイテムが選べない・・・」

この文章では「・・・」が顧客の迷っている意識を表しているわけだが、「・・・」がなくても迷いは十分に伝わっている。さらに「・・・」を付ける ことで、この語り手の気持ちがさらに曖昧になるため、文章の内容に余分で意味不明な雑音が入ってしまう。「新鮮なアイテムが選べない。」で止める方が、コ ピーとして次に述べるであろう企業からのメッセージ、商品のセールスコピーがより明瞭になるはずだ。

(3)余韻をこめた投げかけ
「いま最も注目されるブロードバンドとは・・・」

同様のタイプに「さらなる未知の領域へ・・・」のような文章も見られるが、やはり曖昧さが醸し出す信頼性の低い印象を与えてしまうのではないか。余韻は一 方でメッセージがシャープでなくなることであり、メッセージの主体の自信のなさにつながり、決して強いメッセージにはならない。“余韻を漂わせて気を引く ” という狙いは、高度情報社会の次の次元にある現在において既に有効ではないと考える。

(4)言葉の省略
「お年寄りや体の不自由な方、子供そして大人・・・」

(1)の勝手な省略に対し、やや余韻 を漂わせながら、その後の情報は重要ではないという意図の下で省略するタイプである。ただ“意味不明な戸惑いの感情”は同様に与えてしまう。「など」を付 けて、その後の情報が重要でないという意志を文章として明確にすべきだ。また、えてしてこのタイプは、そもそも「・・・」の前に置かれた内容が適当でない 場合が多い。並列させる内容をよく吟味しない書き手が使うタイプの「・・・」でもあると思う。

(5)言葉の省略による誘引

「超大物アーティスト・・・」 単に省略によって「何? 誰?」という興味を喚起するのが狙いのタイプである。例えば「まだ名前を明かすことのできない超大物アーティスト」などと、ちゃ んと文章化してほしい。「・・・」の使用には、他の言い回しを考えずとりあえず省略して文章を作ってしまう安易な意図が見られる場合が多々あり、昨今の 「カタチ」の多用や語尾上げ言葉と同様、文章を最後まで組み立てるという作業の放棄という側面もある。

(6)言葉の削除
「詳しくはスタッフまで…」

「省略しています」と言っているかのように「・・・」以下の情報を単純に削除するタイプ。店舗等の貼り紙にも多いが、広告でも同様に使用される場 合がある。「おたずねください」「お問い合わせください」と正確に書いた方がよほど信頼の持てるメッセージになる。このタイプも(5)と同様、文章を組み 立てるという作業の放棄であると私は思う。あるいは、文章の自信のなさを「三点リーダ」という手法を通して逃げているかのどちらかだ。

(7)句読点の代用
「Leadership・・・ Women・・・ Leadership ・・・You」。

前述した通り、実際に東急田園都市線車内で実際に見かけた広告に使われていたのだが、一体、何が目的だったのだろう。「句読点の代用」と区分したが、改め て見てみると意味を見出すことができない。ここでは、「三点リーダ」の規格外の事例として取りあげておく。ただしこの事例は「三点リーダ」に見られる“言 葉の組立の放棄”の象徴的なものであり、「三点リーダ」の性格と極めて密接に関連した意味を持つものであると述べておく。

以上が各々の「三点リーダ」の活用に対する私の所感である。これらの内容は次の5点にまとめることができる。

1.「余韻」や「思考」などのニュアンスを文章に生じさせるが、どのような種類の余韻なのか、 どのような気持ちで思考しているのかという具体的な内容を示せないため文章を曖昧化させる。
2.文章の意味を曖昧化することで読み手の円滑な読解の障害となり、その文章が本来伝えるべ き情報のスムーズな伝達を妨げる。また、文章の内容自体への信頼性の低下につながる。
3.省略という手法を取りながら、本来そこに記すべき文章を考慮することなく、そこから生まれ る情報の効果に責任を持たないため読み手の混乱を招く。
4.その使用により文章を止めてしまうことで、文章のリズムを悪化させる。
5.以上の「三点リーダ」の影響の多くは、その代わりとなる文章の作成を放棄する書き手の怠慢 から発する場合が多いと推測される。

これら5点が「実は私はこの記号を使用しない。」と記した私の「三点リーダ」に対する考え方である。もちろん「余韻」「思考」「悩み」という、言葉では出 せない効果をこの記号は持つ。したがって、それを使用することはある意味で有意義であるし、私はその使用の自由を非難はしない。しかし、これらの効果は同 時に私が指摘した5つの懸念と共にあるものであると申し上げておきたい。そして、特に明確で分かりやすい情報伝達が求められる広告の世界では、特にこの記 号の弊害の方が大きいと私は考える。(2002年11月22日)

※三点リーダは、文法上では「・・・・・・」と2つセットでの使用が正式だが、実際の用法 では遙かに単体での使用が多い。したがって本欄ではあえて単体で使用した。さらに言えば、 セットでの使用は三点リーダの欠点を(文章の印象の上からは)助長するものである。

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