広告の世界でしか通用しない言葉、あるいは言い回しというのが存在する。それらは、時に恥ずかしく、時に曖 昧で焦点を意図的にぼかし、当然ながら文章そのものの価値を貶めている。そうした文章を指摘することは、考えることなしに生み出されるステレオタイプのコ ピーの安易さを明らかにし、同時に当社自身の業務への戒めともなろう。 したがって本欄では今回を第一回目とし、そんな“広告でしか見かけない”言葉について記していきたいと思う。
例として掲げた文章中、※印以下で述べているのは、それぞれの言葉に対する当社のスタンスである。使用禁止用語としている言葉以外も極力、安易な使用は避けている。
●ラクラク移動のキャスター付き/通信販売の商品説明コピーでは「楽に移動」をなぜか「ラクラク移動」と記す。こんな表現は普通の会話では殆ど使わないは ずだ。 ※「ラクラク」は通販関連の仕事が多い当社では、当然のことながら禁止用語●多彩なラインアップ/特に多彩でもないのに3種類くらいの品揃えでこ れを使うから要注意。 ※「多彩な」はできる限り使用しないよう努めているが「多彩」という意味に値する場合は使用することはある●「あたらしい私が始ま る」式のメッセージ/「じぶん、新発見」というキャッチフレーズが世に出たのは80年。当時、広告で個人的なマインドに焦点を当てたのは新鮮だったのかも しれない。しかし、私は特に流通でよく見かけるこの種の表現に納得がいかない。特に斬新なイメージ醸成のために使われる場合が多いが、現実的な裏付けは何 もない。「じぶん、新発見」とは意味合いの違う“あたかも自らがすっかり別人になる”ような言い回しは、極端に言えば詐欺のようなものとさえ、私には映 る。 ※「あたらしい自分に会う」「自分を脱ぐ」「もう一人の自分へ」等の表現を当社は殆ど使用しない。使用する場合はあくまでその言葉の意味をフォロー できる文章がある説明文中においてである。少なくとも、流通関連企業向けのキャッチフレーズとして無責任に作成することなど皆無である●ビジネスチャンス を逃さない/OA関連用品で、仕事の省力化につながる機能を訴求する場合、「余分な手間や時間を節約した分だけ、ビジネスの時間として有効に活用でき、大 切な機会を逃さない」という意味で用いられる。 ※類似表現は当社でも用いるが、できる限りリアルな内容による文章で補う●ビジネスシーンを広げます/主 としてビジネスユースの機器の用途が何種類か考えられる場合、「さまざまなビジネスの場面で活用が広がる」という意味で用いられる。 ※類似表現は当社で も用いるが、できる限りリアルな内容による文章で補う●安心の、信頼の/どこがどう安心なのか、何と比較して何がどのように信頼できるのか、多くは定義さ れないままトッピングのように使用されることが多い。 ※アフターサービス等のコピーで、ある程度事実に納得のいく範囲で当社も書くことはある●優れモノ /恐らく通販用語から発していると思われるが、現在では日常会話の領域にも浸透しつつある。しかし、「優れ」と品質の高さを表現していながら品質に疑いを 抱く言葉に成り下がっている点が問題だ。 ※「優れモノ」は使用禁止用語●フレッシャーズ/Freshersと書いたところで英語にはならない。よって複 数にすることにはなおさら意味がない。 ※「この春、社会人として活動し始めた」等、当社では安易な「フレッシャー(ズ)」使用は避けている。
(2002年5月17日)