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疑似表現について。

マンスリー広告批評〈00.10月〉

どこかで見たような広告に出会うことがある。
原因は、多分2つ。単なる偶然か、意図した模倣か、である。まず、偶然の方から考えてみよう。 と言っても、偶然かどうかの判断は不可能に近いのだが、諸条件に照らして限りなく偶然に近い事例を提示することはできる。一つは私自身の経験だ。そして、 これは全くの偶然である。なぜなら、私の作ったコピーはプレゼン段階のもので、もう一つは実際に露出されたものだからである。そのキャッチフレーズは「生 活栽培」。ただ、世の中に出た方は「生・活・栽・培」である。私のコピーは、フジサンケイリビングサービスの通販カタログ「ディノス」の販促テーマとして 出したもので、「生・活・栽・培」は、そごうのキャンペーンワードであった。ただそれだけだ。私はこのキャッチフレーズを目にした時、柔ちゃん風に言えば 「去って行った恋人が、また自分のもとへ帰ってきた」気分だった。私は、それほど低くない確立で、この種の偶然はありうると思う。これを読まれた広告業界 の方で、似たような経験をお持ちの方はたくさんいらっしゃるのではないだろうか。 偶然だと判断できるもう一つの事例は、それが10年という歳月を経て世に出たものだからである。先に露出された方は、業界的には何の話題にも上らなかった 広告だと記憶しているが、好きなキャッチフレーズで私のファイルの中にあった。86年に世に出たそのキャッチフレーズは「髪は、裸で見られてる。」ブリス トル・マイヤーズの髪のトリートメント商品の広告である。一方、そのちょうど10年後、96年に露出されたコーセーの美容液のキャッチフレーズに「顔は、 ハダカ。」がある。コピーが同一というのではなく、視点が同じ事例だが、10年という間隔を考えるとこれも偶然の可能性が高い、と考えたい。
一方、意図した模倣の事例だが、初めにおことわりしておく。似通った広告表現が模倣であるかどうかを、判断することは不可能だ。したがって、以下は「偶然」である可能性が低いと考えられる事例とさせていただく。なぜなら、元となった広告はいずれも、広告を作る人間なら誰もが知っていてしかるべき作品であ り、1点を除いて2年以内に露出された広告との相似性が見られるからである。さらに各広告は、いずれもマス媒体もしくは都内及び近郊の交通広告だから、場 所的なギャップ(地域が違うため見ていない等)による偶然は基本的にありえない。ただし、これらの条件とて完全な模倣の根拠にはならないのはもちろんである。 PARCOから98年に発信された店頭ポスター・交通広告「いっそ、美人に」。青空をバックに、白いドレスのモデルが両手を広げて浮かんでいるようなイ メージのビジュアルは、恐らくこれが最初だったのではないか。10月に露出されていたU旅行会社の駅貼りポスターの両手を広げて空中を浮かんでいるかのよ うなビジュアルは、PARCOの「いっそ、美人に」のビジュアルに似てはいないか。 確か1年以内に露出された他社の駅貼りポスターにも似たようなビジュアルがあった気がする。 次に、やはり10月に露出されていた某メーカーのりんご飲料で、りんごを丸ごと口いっぱいにくわえているポスターは、あのアムネスティ・インターナショナ ルのコルクをくわえた有名なビジュアル(91年)に似てはいないか。 さらにもう一つ。これも10月に露出されていた某スーパーのレザージャケットの駅貼りポスターは、明らかにユニクロ・テイストを踏襲してはいないか。白地 に商品を並べただけのポスターなど、いままで実施したことなどないではないか。そして低価格の品揃えを言いたいのなら、他の表現手法もあったのではないか。
以上述べた通り、この10月は似たような広告が目立った1ヶ月だった。相似性の強弱はあるし、レザージャケットの広告はトーンが似ているだけだから、本来 は取り上げるべきではないのだが、たまたま10月に露出された広告であったので、何らかの因果関係を感じて紹介した。
ここまで述べて思うのは、最近、コピースタイルの似通っている広告がないなぁ、ということである。もちろん悪い傾向ではない。むしろ健全である。あれは 86年頃であったろうか、伊勢丹が「空想実現百貨店」というキャッチフレーズを展開した後、「くらしの体力強化月間」「愛情強化月間」等の漢字まじりの似 通ったニュアンスのコピーが続いたことがある。最近こうした現象が見られないのは、模倣されるような印象強いコピーがないという証なのだろうか。さらに 穿った見方をすれば、広告におけるコピーの地盤沈下ともとれる。それが本当ならコピーライターとしては少々複雑だが、ここはとりあえず健全な時代なのだと 考えておこう。その方がよほど健全である。




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